M・Jと豆乳

 一人暮らし16年目、外食が続くと無性に手料理が食べたくなる。

そこで、寄り道してでも食べたい豆腐屋に寄って豆腐と油揚げを購った。

そこの豆腐は絶品だが、油揚げもまた、油が違う。

先日がんもどきをいただいた時のお礼を言うと、油揚げを1枚おまけしてくれた。

その店の豆乳は定期注文者にしか売ってくれないし、

あの世界的なロックシンガーM・Jが密かに取り寄せているという 噂だったので、

女将さんに尋ねると、

「あなたのかわりに取りにくる人がいなかったら、やめといたほうが いい」

と、断わられた。

その店の斜め前の親父さんが、絶対続ける!と豪語して、一月も続かなかったそうだ。

ぼくには執事もメイドもいない。

一人暮らしの身では毎日寄るのは無理なのであきらめた。

しかし、40年も飲み続けているという同年代の女将さんの肌艶をみると、

その効果は絶大のようだ。豆乳など飲んでみたいとも思わなかったが、

M・Jの噂を聞くと、試してみたくなる。だが、何事も長く続けなければ効果はないはずだ。

負け惜しみに聞こえるだろうが、飲んだこともない豆乳がどんな味かもわからず注文するのは愚である。

今宵は、昆布とカツオのあわせ出汁に、奄美の砂糖、ヒマラヤ岩塩で油揚げを煮込み、

きつねうどんを作って食べよう。豆腐はもちろん、鰹節と生姜を振りかけて、

薄口醤油で冷奴だ。 食前酒が周五郎のヴァンとは、何と奇妙な晩餐だろう。

夢と現のはざまで…

 夢の中で目覚めて、”故郷の父や母はお元気だろうか”と気がかりになり、

急いでトランクに着替えなど詰め込み帰り支度をしながら呆然としていた。

父母は遠の昔にこの世にいないことに気づいたからだ。

目覚めたと思っていたのは夢の中の出来事で、

呆然としたぼくはトランクの荷を見ながら、50年ぶりに故郷に帰ってみようかと思っていた。

そこへ、小学校の同級生だった坂口民男から携帯電話にメールが 来た。

55年前の小学校担任だった先生を招いて同窓会をやるので来てくれ、と記してあった。

坂口民男は30歳を待たず死んだのではなかったか?いや、あれは坂口弘のほうだったか?

そこで、夢からようやく覚めた。だが、本当に夢から覚めたのか自信はなかった。

ぼくは頻繁に故郷へ帰っている。

去年は父の一周忌だったし、夏にはたびたび阿蘇の友人の別荘を訪ねている。

50年も帰っていない夢を見るとはどういうことだろうと痛む頭で考えた。

坂口民男からのメールは確かに正月に来ていた。5月に同窓会を開くというメールだった。

閉めきったカーテンを開けた。陽射しは眩しく、空は晴れわたっていた。

こんな日は芝生に寝転んで好きな詩集でも読みたい。

12世紀のイランの詩人オマル・ハイヤームがいい。

……

幾山川を越えて来たこの旅路であった。

どこの地平の果てまでもめぐりめぐった。

だが、向こうから誰一人来るのに会わず。

道はただ行く道、帰る旅人を見なかった。

土の褥の上に横たわっている者

大地の底にかくれて見えない者

虚無の荒野をそぞろ見渡せば

そこにはまだ来ない者と行った者だけだよ。

……

小川亮作訳「ルバイヤード」(岩波文庫版) 

花に想う

 常人を寝不足にさせるソチ五輪が今夜で閉会する。

五輪を観ていると、人間はこうも競うことに熱狂するのかと感心する。

そういえば、古く唐の時代、中国に闘花(とうか)という花くらべがあった。

花を髪にさしてその奇抜さを競うらしいのだが、当時の最高の花は牡丹だったようで、 

どんな基準で選ぶのかは知らないが、さぞ綺麗であっただろう。

フィギアスケートの基準も素人にはよく判らないが、後半で転んでも難しいジャンプだと高得点が出るらしい。

メダル争いに一喜一憂するように、遠く唐の長安で、髪に花を飾って競い合う行事があったことを想うと、

人間はその意志で優雅にも残酷にもなれるようだ。

ぼくの原稿が遅れているのは、五輪の所為ではない。

深層で何かが邪魔して四苦八苦している。うっすらと見えるその原因を閉じ込めながら、

何日も夜を明かした。

ヨーグルトとドライフルーツのマンゴー

 暮れにグアム帰りの友人からドライフルーツのマンゴーを土産にもらって、

ヨーグルトの美味しい 食べ方を教えてもらった。

朝に食欲がないときにお薦めなので、脚本書きの筆休めに記しておく。

まずはプレーンヨーグルトの大缶に、ドライフルーツのマンゴーを、

あふれんばかりに詰め込むのである。

蓋をして冷蔵庫に一晩寝かせておいて、 翌朝食べる。

マンゴーの甘みがヨーグルトに溶け込んで、しかも、

マンゴーはしんなりと食べ易くなっていて、一缶かるがると食べられる。

元来好奇心旺盛なので、他のドライフルーツでも試してみたが、

どれもマンゴーに匹敵するフルーツはなかった。友人は正しい。

以来、ドライフルーツマンゴー 入りヨーグルトは、ぼくの必需品となっている。

さて、原稿書きに戻ろうか。

♪ 春まだ浅き北天の空、星は生まれ消えてゆく…

戻れないから愛おしい、過去という名の宝石箱… ♪

ひだまりの悲しき静寂

 昨夜メールを送った3名から返信がないので、

携帯電話が停まってしまったのかとさびしい気持ちで目覚めた。

メールを送った中の二人は間髪居れず返信をくれていたのだ。

(もうひとりは2,3日過ぎて返信がくるので、期待はしないが… )

別人からメールが届いたので携帯電話は停まっていなかった。

メールに返信をして窓のカーテンを開けると、

春めいた陽射しが部屋に広がった。

今日からたまりにたまった原稿を書かねばならない。

これがぼくの闘いなのだ。人生の岐路で選んだ道なのだ。

いつも誰かが囁いた。”迷うな、困難な方を選ぶのだ”

こうして、ぼくはいつも窮地に陥り、もがき苦しんできた。

そうだ、死んだほうが楽だろうと思うから死なないで生きているのだ。

人が空と名付けた空は晴れ、人が陽だまりと名付けた陽だまりは温かく、

人が静寂と名付けた静寂のなか、人のなかの一人であるぼくは、

人が魂と名付けた魂の揺れる愁いを身体に感じている。

初日5日前の主役交代!!

 新宿村LIVE杮落し公演「マケイヌバー」主役美勇士くんの急病降板!

初日5日前に、三浦孝太くんが代役を引き受けてくれた!

何と3日間で90分しゃべり続けるバーのオーナーのセリフを入れてくれたのだ。

本読み1回、立ち稽古1回、そして昨日今日は衣装替えもある舞台稽古。

途中ギターの弾き語りまである。

代役を引き受けてくれた心意気に感謝すると共に、このめぐり合わせに感動している。

アクシデントはそればかりか、ヒロイン役の葉月嬢まで急病で降板!

もう絶体絶命の危機に、歌手役で出演の半田杏嬢が代役を演じてくれることになった。

これまた、短い稽古期間にもかかわらず、見事に役を仕上げてくれた。

災い転じて福となす。人事を尽くして天命を待つ!である。

明後日は初日、ゲネプロを見届けたら、ぼくはザムザ阿佐ヶ谷に向かい、

月蝕歌劇団の舞台にあがる。

寺山修司作高取英演出「家出のすすめ」13日~17日の公演。

15,16日は17時から詩劇ライブで歌います!是非のお越しをお待ちします。

お問い合わせは朝倉薫演劇団HPまで。 

トリプルブッキング!を乗り切る!!

 気づけば2月も5日が過ぎた。気温の寒暖差が激しい日々が続く。

高齢者には厳しいだろうと他人事のように心配していたが、

自分のことではないか?!

こんな老骨にたくさんの仕事の依頼、感謝しなくてはならない。

しかし、この身体はひとつ。

舞台の演出と出演がまったく重なり合っているうえに、

かかわってしまった地方の演劇養成所の立ち上げにも参加しなくてはならない。

どうする俺!みたいな状態が続く。でも面白い!

そして、東京がいかに便利な都市かあらためて実感する。

人間が作り上げた都市の中で、機能と安全性、情報網、そのほか諸々、

これほど優れた都市はないと感心する。

老朽化を整備すれば、この先も快適に仕事が出来るだろう。

地方に住む友人たちは口々に”東京は住むところじゃない”と嫌うが、

ぼくには最高に水が合う。

まずは2月13日から17日、ザムザ阿佐ヶ谷月蝕歌劇団公演「家出のすすめ」客演。

15、16日は昼夜公演の間に詩劇ライブで「HOTEL安穏夜」を歌う。

一方、2月13日、14日、16日は新設の新宿村LIVEにて、

桑名美勇士主演「マケイヌバー」作・演出朝倉薫の公演。

どちらも全力を尽くしますので、応援よろしくおねがいします!