男の下着

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 父が襦袢の柄や羽織の裏地、特に下着にこだわったように、自活するようになった頃から、僕も下着にこだわり始めた。そして、父の気持ちが理解出来るようになった。下着は誰かに見せるわけではない。自分自身のこだわりである。朝、シャワーを浴びて着替えるときの儀式めいた瞬間、身体ばかりか、心も引き締まる。誰かに見せるためではないが、事故で何度も救急車の世話になった僕は、もしもの時の下着の大切さを実感している。

 30代の半ばから、ロンドンのバーバリーの古めかしいボタン付きのパンツのフィット感に魅せられて、今も下着はバーバリーのトランクス型ひと筋である。と言うと、ビンボー作家が何をと思われるだろうが、誕生日の夏、クリスマスの冬と、全部ひと様からのプレゼントなのでご安心を。(別に心配はされていないか) なかでも、こだわりを知っている劇団員たちがアルバイトで稼いでプレゼントしてくれた下着は、大切すぎてゴムが伸びきるまで穿かずにはいられない。

 しかし、穿きごこちは良いが、トイレを急ぐときは不便である。前のボタンを二つ外さないと取り出せないのだ。これは男しか判らない。

 何もかもが進化した世の中で、ひとつくらいは旧態然としたものを身にまとうのも悪くはないと思っている。褌を絞めなおすという言葉もある。へこたれると言うのは兵子帯が緩むという意味だ。男にとって、女性に負けず劣らず、下着もなかなか重要なのである。

 

空蝉の哀しみ

 堀川りょう演じる伝説のスタントマンマッキー倉本が血を吐くように台詞を吐く。

「スタントマンというのはなあ、死ぬためにあるんだ。スターの為に…」

 スター=憧れ、夢、希望、英雄、この世のものではない美しい存在。

 決して死んではならない存在の代わりに命を懸ける。命を蔑ろにしているのではない。空蝉に存在を懸けるのだ。「生きている」という実感を掴むのである。

 堀川りょうとめぐり合ってこの作品が生まれ、そして彼が脚本に命を吹き込む。堀川りょうがマッキー倉本なのか、マッキー倉本が堀川りょうなのか、稽古場で考えるゆとりはない。

 一方で、マッキー倉本に憧れてスタントの世界に飛び込んだ前田アキラという青年を新人の山本一慶が演じる。若さだけが演じられる、汗が宝石に見える世界を一慶は眩いばかりに美しく表現してくれる。いくら台本を読み込んだって、判らないものは判らない。演じてみるしかないことを彼は本能で理解出来る俳優である。あまりダメだしはしない。何度も演らせるだけだ。

 初日まで2週間余、今日も稽古は続く。空蝉(存在の不確かな現世)の悲しみを描こうと書いた作品が、俳優の熱情を得て、荒ぶる魂の跳躍する舞台となった。劇作家冥利に尽きるとは、このようなことであろうか。では、稽古場へ。

柿の葉寿司

 昨日、京都に住む妹から柿の葉寿司が送られてきた。

京都の貧乏公家に嫁いで以来30年、五月雨の季節と風が北から吹く頃、毎年届けてくれる。

一人で食べられる量ではないので、稽古場に差し入れた。奈良の老舗の寿司らしく、皆おいしそうに食べてくれた。稽古に参加出来ない劇団員に、柿の葉寿司が送られてきたことを報告していたのに、迂闊にも全部平らげてしまった。

 妹に電話し、すまないがもう一度送ってくれないかと差し入れの催促をしてしまった。

 またまた迂闊にも、以前大阪の姉からあれは高価な贈答品だと聞いていたことを電話のあとで思い出した。妹は快く了承してくれたが、義弟が聞いたらなんと図々しい兄だと思うだろう。

 ♪わかっちゃいるんだ、兄さんは~奮闘努力の~フーテンの寅さんの主題歌が口をついた。

稽古帰りに

image0010.JPG撮影:小坂真郷

 舞台「スタント」出演の前田アキラ役山本一慶くん(向かって左側)と内藤真介役の遠藤巧磨くん(向かって右側)と稽古帰りの駅で、撮影は西条俊彦役の小坂真郷くん。いずれも僕の芝居には初登場の好青年たちである。

 山本くんの役は、堀川りょう扮するスタント界の大スターマッキー倉本に憧れて青森から上京した新人スタントマン。遠藤くんは同じ拳友会の先輩で、次のスターを約束されているホープスタントマン。そして、小坂くんの役は、身長がちょっと足りなくて、山本くん扮するアキラを専属スタントマンに欲しがる若手大スター。それぞれの個性がぶつかりあって、稽古場では火花が散っているが、稽古が終われば同じ釜の飯を食うカンパニーの同志である。

 稽古に入ってそろそろ一ヶ月になる。ようやく舞台が見えてきた、のは演出家の僕だけだろうか。俳優にはゴールというものがない。演出家を信頼して夢中で稽古に励んでくれるのが、頼もしい。あくなき向上心で突き進んで欲しいと思う。それにしても、21歳と24歳に挟まれて張り合って(何を?)いる演出家は、この夏63歳になるというのに、歳を忘れている?

  

スタント主題歌完成!

スタント~大空へ~

              作詞・朝倉 薫

              作曲・神津裕之

              歌 ・堀川 りょう

♪スタント~果てしない大空へ…舞い上がれ夢…

奈落の底に落ちても 這い上がれ夢~

燃える焔に焼き尽くされても 甦れ夢~

そうさ 孤独を切り刻み 迫る恐怖をねじ伏せて

その身体 その身体 映画スターにくれてやれ!

魂こそがお前の命だ!スタント!

♪♪スタント~憧れに届くまで…舞い上がれ夢…

男が一度決めたら 手放すな夢~

命知らずと嘲(あざけ)り受けても 振り向くな夢~

そうさ 孤独に打ち勝って 鍛え抜かれたその身体

その想い その想い 銀幕の中 焼き付けろ!

生き様こそがお前の全てだ!スタント!

その身体 その身体 映画スターにくれてやれ!

魂だけがお前の命だ!スタント!

スタント!スタント!スタント!

 物語の終幕、朗々と歌い上げる堀川りょうの魂の歌声が、

照明の落ちた暗闇の劇場に響き渡る。

先日無事に収録を終えた。

誌面で歌をお聞かせ出来ないのが残念だが、

15周年記念公演の予告編がユーチューブで流れていて、

微かに歌声が聴こえる。バージョンアップした20周年記念公演を、

是非お楽しみに。

東京午前4時

 書き続けた台本も最終場を迎えて、ちょっと一服。カンヅメHOTELの部屋で湯を沸かしている。このHOTELのティーバッグの煎茶は、こころなしか薄く感じる。

 何とか締め切りを守れそうで、ホッと時計を見れば午前4時前。あと6時間で、10枚。この気の緩みが怖い。タイトルを「影の半蔵~家康の棺~」に変更した。登場人物の大幅な変更はない。後藤享が気にいってくれると嬉しい。

 土、日を挟んで、また来週から「スタント」の稽古が続く。このままホテル暮らしが続けば楽なのだが、そういうわけにもいかない。明日は引き上げだ。しかし、つくづくデラシネの生活が性にあっていると実感する。日本だろうと外国だろうと、HOTELの部屋は落ち着く。仕事も捗る。快適である。終の棲家はホテルにしたいと本気で考えている。

 静まり返ったHOTELの一室、午前4時、原稿用紙の升目を埋める至福の時もそろそろ終わる。「影の半蔵」の結末をこれから書く。そして、熱いシャワーを浴び、チェックアウトに向かう。窓の外は雨の気配、朝になっても降り続くのだろうか。

祈りは届くか!

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 歌や踊りは祈りであるが、芝居もまた祈りである。いや、人間の営みはすべて祈りであると思う。

 桜を見上げれば逝ったひとを思う。月を見上げては明日の無事を思う。

朝まで台本を書き、昼から稽古場へ向かい、稽古を終えてHOTELに帰り原稿を書いている。

 皆が気を使って、稽古前の昼食や稽古終了後のお茶にも付き合ってくれない。土曜日の朝まで仕上げなくてはならないので、仕方がない。今、一休みしてパソコンを開いた。(久々に原稿用紙に書いているので)

 今更ながら思うのだが、原稿用紙の升目に文字を埋める作業もまた、良い米が出来るようにと稲を植えるような祈りの仕事である。観客を喜ばせる良い舞台になるようにと、ト書きや台詞を書き込んでゆく。この祈りが届きますように。

 稽古も順調に進んでいる。一人たりとも欠かすことの出来ない舞台は緊張の連続である。本番では代役のいない小劇場の舞台だが、稽古では皆が進んで代役をやる。それが本役よりも伸び伸びと楽しそうに演じる。憎たらしいので”本役よりも良いな!”と俳優に皮肉を言う。演じる本人もそう思っているようで、稽古場が笑いに包まれる。長年演出をやっているが、芝居がよくなるカンパニーである。緊張ばかりでは萎縮する。笑いばかりでは緩慢になる。

 共演者はライバルであり、同じ釜の飯を食う仲間である。切磋琢磨という言葉が一番相応しい。堀川りょうという素晴らしい俳優と若い俳優たち、物語も、堀川りょう演じるスタントのスーパースターと、彼に憧れてスタントの世界に飛び込んだ若者たちの夢と憧れと青春の葛藤である。しかも憧れのスーパースターは今スランプのど真ん中であがいている。と、是非劇場にお越しいただいてご覧いただきたい。5月16日(月)より22日(日)まで10回公演、池袋シアターKASSAIにて上演です。チケットは、劇団HP、または各出演者、ローソンチケットでお求めいただけます。では、また。

舞台「スタント」打ち入りを生中継

 何と、舞台「スタント」打ち入り(稽古に入って気合いを入れる儀式、というより飲み会)を、ニコニコ動画で生中継するらしい。主演の堀川りょうをはじめ、山本一慶ら出演陣が勢ぞろいする。明日20日午後6時からの生中継なので、インターネットを覘ける方は是非ご参加ください。初日まで一ヶ月を切り、稽古もいよいよエンジン全開、皆飛ばし始めた。一番注意するのは、張り切りすぎての怪我だが、今のところ無事乗り切っている。宮城県出身(小野かをリ、工藤博樹)が2名出演する。飛んで帰りたいだろう気持ちを芝居に込めて頑張っている。スタントマンの心意気と悲哀を描いたこの作品で、工藤博樹くんはスタント専門の事務所マネージャーを熱演する。小野かをり嬢は大スターのメイク係&…という難しい役を初舞台で演じる。

 そう、頑張れというのは容易いことだが、言葉ではない。僕は作・演出家として、彼らの演技が最高に輝くよう、熱く冷静に本番まで導くことが使命である。同情や慰めなど彼らは決して喜ぶまい。仙台からもチケットの購入者がいらっしゃると制作から聞いた。尚のこと、最高の舞台をお見せしたい。出演者、スタッフ全員の想いである。

 昨日からパンフレットの撮影も始まり、舞台が近づいたことを実感する。そして僕は今日から、稽古場へ徒歩1分のホテルにカンヅメである。9月公演「支那から来た半蔵」の脚本(まだ書き上げていなかったのか!)を今週中に完成させなくてはならない。ホテル代は貴重な制作費から出費されるのである。不眠不休で頑張ろう!(と、自分を励ます)この作品は、後藤享&真一涼の劇団在団10周年記念公演である。おろそかに出来ないと思うと脳が緊張するのだ(言い訳はやめろ!)さっさと書け!と、後藤の心の声が聞こえるようだ。すまん!

旅行かばん

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 ♪胸に秘めた想いは募る

 遠く遠くふるさとの森で

 風は生まれ旅に出てめぐリ逢う 

 あなたに…何処かで…

 作詞・竹内緑郎 作曲・小磯綱騎 より

「風の生まれる森」の1節が、道すがら、ふっと口をついて出る。 

月に一度のライブを始めて5ヶ月目になる。

「旅行かばん」は36年前につけたバンド名。

そのころ使っていた旅行鞄を今も持っている。

今時のキャスター付きの便利なかばんではないが、馴染んでいるので手放せない。

46年前から使っているギターの次に古い持ち物である。

着替えと原稿用紙を入れていたら、もう稽古に出かける時間となった。

アパートの外装工事はまだ続いている。では、また。

真昼の月

 真昼の月 作詞・作曲 竹内緑郎

青い空に浮かぶ月を 

僕は涙に濡れながら見上げた

もしも世界が今日で終わり

君と逢えなくなるとしたらどうしよう

愛してることを言葉じゃなくて

日常のほんの小さなことで

僕は君に何がしてやれるんだろう?

世界平和とか革命だとか

そんなことよりもっと大切な

君が本当に必要なことに気付くべきだよね

真昼の月が頷いたような

遠い遠い空の向こうで

君を想って歩き続ける

今日という日を踏みしめて

 2番の歌詞もあったのだが、忘れた。

 5月28日のメリーココで歌おうと思って譜面を起こしている。芝居の稽古は集団でやるが、原稿を書いたり歌を書いたりするのは一人で出来る。程よい割合いだと精神が安定する。何事も偏るのは身体に良くない。

 錯覚かも知れないが、今日、坂道を歩きながら心の重い扉が開いたような気がした。”さあ、思いっきり生きてみろ”そんな声が聞こえた。歌を歌いながら歩いた。風貌も言動も充分に怪しい。夕闇が包んでくれたので、無事に帰宅出来た。ほんとうにありがとう!