僕は遠くから来た

p2010_1020_163120.JPG 東京で暮らして40年が過ぎた。何処に行っても東京へ戻って来てしまう。倫敦、巴里、紐育、暮らしたい街は何処も大都会であるが、東京の空気が一番身体に合う。九州の山里で生まれたのに、どうも田舎の空気に馴染めなかった。これは感覚だから仕方がない。

 中野坂上で暮らして26年になる。そろそろ違う街に引っ越そうと思う。思うだけで行動には移せない。住みたい街は湯島か神楽坂だ。想像するだけで楽しい。マンションは厭きた。今度は純和風の平屋がいい。縁側から出入り出来て、寝転んで月を眺めたい。友人が訪ねて来たら、熱燗で一杯やる。庭に七輪を焚いてスルメを炙る。ギターを弾いて歌を歌う。

 やっていることは今とたいして変わらないが、マンションの庭では風情に乏しい。それに、芝居が終わった昨夜、解体した舞台装置が庭に山と積まれた。しばらくは材木の山を眺めて暮らすことになる。父を迎えるどころか、自分の居場所さえなくなりそうだ。何処か遠くへ逃避行したい気分だが、みちゆきの手を携えるひともいない。こんな夜に書く戯曲は、切ない物語になる。

 僕は遠くからやって来た。だから遠くへ去って行くだけだ。たくさんの物語といくつかの歌を君に残して行く。覚えていてくれるのは、笑い顔だけでいい。ぢゃぁね!